| では、なぜ医師を確保できないのだろうか。理由の第一に指摘されているのは、昨今の医師の気質と大学の医学教育のあり方である。ある病院の
院長はこう解説する。 「昔は『医は仁術』と言われ、地域への奉仕や献身のために、医者を志す者は僻地や郡部に進んで赴任したものでした。ところが、この頃は郡部に勤務となると、皆嫌がります。生活環境が快適でないことと、自分が学んだ専門性を発揮できないなど、メリットがないということで地方に行きたがらないんです。
この背景には大学の医学教育の問題があります。 医学教育があまりに専門化しすぎたために、医療全体を学ぶことができなくなったんです。このため若い医師は専門の医局や専門の科目だけを診る病院に行こうとするようになった。その方がやりたいことだけができますからね。
ところが、郡部や田舎の病院では、ある程度全体的な診療ができる医者が求められている。しかし、若い医師はそうした訓練は受けていないし、嫌がる。そのため地方の病院に医者が集まらないわけです。この結果、宮城県内では仙台に医者が集中し、郡部では不足するというアンバランスな状態になっています」
こうした医師の不在・不足を補うために、地方の病院では大学の医局に斡旋を依頼している。だが、ここにも厚い壁があって医師の招聘は極めて難しいのが現実だという。
ある病院の副院長はその理由をこう述べる。 「医師の人事権を握っているのは大学の医局ですから、我々は医局に相談・斡旋をしなくてはどうにもならない。ところが現実には、大学の医局とのパイプがないと、医師を斡旋してもらえないんです。地域病院の場合、そうしたコネクションがほとんどない。このため医師の確保・補充ができないわけです」
この「『閉鎖的な大学の医局の扉』をこじあけるのは県の役割だ」とは地域病院の関係者が異口同音に指摘するところである。県内の医療行政を司るところであることからすれば、当然であろう。
だが、その県は及び腰というのか、一向に積極的でないという。 実際、前述した志津川総合病院の医師不在に伴い、県議会で浅野史郎知事は「命に関わることであり、一刻も猶予がならないことは理解している。
医師の確保に全力を尽くしたい」と表明した。だが、その後今になっても医師が補充されてはいない。そのため病院関係者からは次のような憤りの声も囁かれている。
「知事や県の病院局の幹部は『速やかに対処します』とは言うけど、実際は少しも動いている素振りが見えない。むしろ県は医局のスタンスを容認しているように見えるし、県としても積極的に医師を確保する気持ちがないように感じる。本当に確保する気があるなら、何も東北大の医学部だけに要請するのでなく、斡旋業者を介してでも全国レベルで医師を探すべきで
す」 病院関係者が知事や県当局を批判しているのはこのことだけではない。県の予算措置についても疑問を投げかけている。 院長の一人はこう言う。
「県立病院は県が100%出資し、公立病院は各市町村が出資・運営している。だから知事や県当局は公立病院については、各市町村でやり繰りしろというスタンスです。確かに理屈としてはそうだけど、現実問題として市町村は県以上に財政が圧迫している。だとすれば、県として何らかの措置をすべきです。県立病院にしても、県はトータルで病院の赤字を捉えているため、個々の病院の実態がどうなっているかを把握していない。机上の論理、数字だけを見て判断しており、それが予算措置になっている。しかも『福祉先進県』と言いながら、医療・福祉分野の予算は減っています。地域病院の経営はすでに待ったなしの状態にきており、このまま手を拱いていたのでは地域医療体制は危機的状況に陥ることになります」
行政の最大の使命は、県民の命と生活を守ること
なぜ、予算額が減少してきたのか。県の財政が厳しいことはもちろんだが、要因はそれだけではない。「県立ガンセンターの赤字がどんどん膨らんだため、そちらに予算が振り分けられたことが大きい」(ある病院長)という。
そして、それ以上に大きな要因となっているのは、浅野知事が強引に進めている「子ども病院」だということは、多くの病院関係者が指摘するところである。医療関係者の一人は次のように語っている。
「小児医療は救急体制が不可欠で、県内には救急体制が整備されていなかった。だから知事が『子ども病院』必要だということは理解できないわけではない。ただ、現在、患っている人の8割は70歳以上の高齢者で、その割合は子供の比ではない。つまるところ、将来を託す子供を優先するか、老人医療にウエイトをおくかということになるが、知事は子供の方を優先すべきだと判断したのだろう。
しかし『子ども病院』は年間80人しか診療対象できない。その建設に140億円もかかり、年間20億円の費用負担をしなくてはならないと考えたとき、果たして知事の判断が妥当なものかというと、違うような気がする。
なぜなら、我々医者にとって、子供も老人も人命には変わりはないし、地域医療というのは老若男女のすべてが含まれ、2次医療という幅広い範囲まで対象になるからだ。
『子ども病院』は地域医療体制が整備されてからでも遅くはないが、地域医療の整備は急を要する問題だ。しかも『子ども病院』にかける多額な費用を県立病院や公立病院に振り当てれば、どの病院も経営が改善するのは目に見えている。知事の考え方はピントが大いにずれているとしか思えない」
現在、宮城県には県内全体の医療を統括するシステムが構築されていない。このため個々の病院はすべてを自力で対処せざるを得ない状況にある。
しかし現実には、経営の難しさや医師の不足もあって、すでに自らの力だけでは補いきれない状態におかれている。そのため「今後は医療の広域化と医療ネットワークの構築が不可欠」(病院関係者)と指摘されている。
こうした状況の中で、行政の最大の使命は、県民の命と生活を守ることに尽きることは言うまでもない。ところが現実には、前述した状態をみれば、それすらも遵守・遂行されていないかのようである。浅野知事一人ばかりの責任ではないが、県の対応が後手を踏んでいることは否定しようがない。地域住民の命と生活を守るためにも、県の果断な対策が今すぐにでも求められている。 |