2001.12
第3号5P
 
  俗な言葉で言えば「カラスが鳴かない日はあっても、談合のない日はない」。公共工事あるところ、談合は常に行なわれている。では、それはどのようにして行なわれているのか。談合組織の構図とはどのようなものなのか。県南の2つの中核病院建設を例に、その実態を明らかにしてみたい。
 
 白石市福岡−−白石市の中心部から少し外れた小高い丘の一画に、公立刈田綜合病院の改築工事が現在進められている。現在の病院施設が老朽化し、狭くなったことにより移転改築するもので、完成は来年春の予定。敷地面積約5万6千u、延べ面積約2万5千u。地上三階建て、地下一階。総工費約100億円で、土地や医療機器を含めると150億円もの一大プロジェクトである。
 この建設工事はJV(ジョイント・ベンチャー)で行なわれ、受注したのは大手スーパーゼネコンの鹿島と、東京に本社がある中堅土建業者の安藤建設、それに県内大手の奥田建設の3社である。
 関係者によると、この工事の発注者である白石市の川井貞一市長は「鹿島を入れるのは嫌だ」と洩らしていたという。だが、結果的にはそうした発注者の意向が無視された形になった。なぜか。業界内にある「談合の縛り」が市長の意向よりも強力なためである。その経緯について事情通が解説する。
「もともと刈田綜合病院は鹿島が受注・建設したものだ。業界には『ハコモノについては、一度請け負った業者が新たな工事も行なう』という暗黙のしきたりがある。このため刈田総合病院の改築工事は、最初から鹿島が取ることが自動的に決まっていたんだ。市長がいくら『鹿島はダメだ』と言ったとしても、業界のルール、談合の縛りの方がはるかに強い。しかも談合組織の頂点にあって、東北全体の工事の差配役をしているのが鹿島だ。他の業者はそれに逆らえば次から仕事を回してもらえなくなる。何故なら業界には『工事指名は役所からもらうが、仕事は業界、つまり談合組織の差配によって与えられる』という不文律があり、この規則に従うことで仕事が配分され、会社を維持できている。こうした談合の鉄則があるからこそ、刈田病院の場合も他の業者が手を挙げられなかったんだ」
 では奥田建設と安藤建設はなぜJVに加わることができたのか。もちろん談合=鹿島による差配によるものだったことは言うまでもない。事情通が引き続き説明する。
「当初、この工事は大手−大手−地元のJVになるだろうと、誰もが読んでいた。ところが何故か会社の総合評価が900点以上なら大手3社でかまわないということになり、それで奥田建設が鹿島と談合して組み込んでもらったんだ。奥田は白石工業高校の工事を取るつもりでいたが、それがダメになったため、刈田病院を何とかしたいと、鹿島に頼み込んだと言われている。奥田は宮城県建設業協会の会長を務めていて、鹿島とはホットラインが敷かれている。実際、鹿島と奥田はツーカーの仲で、これまでも鹿島−奥田ラインで請け負った仕事は山ほどあり、今回もその図式だ。
 安藤建設が入ったのは、ここの担当部長が白石市出身で、以前に白石商家資料館を建てたこともあって、今回仕事を回してもらったようだ」
 いずれにしても、市長の意向に背いた形で受注業者が決められたということは、それだけ談合組織の縛りが強く、業界内における鹿島の差配力が強大なことを物語ろう。
 一方、これとは逆に発注者の意向が業界を「屈伏」させた例もある。来年4月に大河原町に完成予定の県南中核病院(仮称)がそれである。この病院は敷地面積5万1千u、延べ床面積は2万4千uの地上5階建て。総事業費180億円というものだ。
 この建設工事もJVによるもので、準大手ゼネコンのフジタ、県内大手の橋本、それに地元県南地域の業者の八重樫工務店・大慎・松浦組の計5社が受注した。関係者によると「地元業者の3社は政治力があり、この工事を取るのは事前にわかっていた。橋本が入るのも規定路線だった。問題は元請けで、本来はフジタが取るはずではなかった」という。では、なぜフジタが受注できたのか。地元のある業者が打ち明ける。
「宮城県内では各地域に中核病院の建設計画が浮上している。そのため鹿島・清水建設・大林組・大成建設・西松建設のいわゆるスーパーゼネコン5社は自分たちで分配・受注することで合意していた。この県南中核病院もそのうちの1つだ。ところが、その思惑に横槍が入ったんだ。この病院の施工管理責任者になる大河原町の佐藤卓郎町長が是非ともフジタに取らせるように仕向けたと言われている。このため談合が成立できなかったようだ」
 佐藤町長がなぜフジタに固執したのか。「実は佐藤町長の親類が先年、ブックセンターを開業したが、経営が破綻。この土地と建物を5千万円以上で売却したいと思っていたが、どこも買い手がない。そんな中でフジタが8千万円の高値で引き取ってくれた経緯があるという。この恩義に報いるため、どうしてもフジタに病院工事を引き受けさせたかったようだ。このため談合組織も不承不承、佐藤町長の言いなりになったようだ」(地元のある業者)という話が地元で囁かれているという。
 もっとも、こうした白石市や大河原町のように、発注者側と業界側の意思が異なる例は極めて珍しい。何故なら発注者側の「官」と受注者側の「業界」は表面上はともかく、その実態は蜜月関係にあるし、同時に両者の調整役として政治家が介在するからである。「談合システム」というとき、一般に業界内の「受注配分システム」のみと受け止めがちだが、実はそうではない。あくまでそれは業界内独自の「利益配分システム」であり、これとは別にというか、このシステムの頂点に「政・官・業による三位一体の癒着・利権配分システム」があり、これこそが談合システムの本質である。
 では、なぜ政・官・業が癒着するのか。ある業界OBが解説する。
「政治家が最も恐れているのは、選挙で落選することだ。そうならないようにするには、常に安定した票田を確保しておかなくてはならない。この票田と資金を維持するには土建業者とつき合うのが手っとり早い。業者も政治家のそうした弱みを知り尽くしているから、金品を渡しては情報を提供してもらったり、仕事を回してもらうために、それとなく働きかける。 公共工事では役所が設計計画や予算配分をするが、これらは議会承認を得なくてはならず、議員は当然知る立場にある。この情報が業者にもたらせられるわけだ」 では「官」と「業」はどう結びついているのか。
 その仕組みは次のような具合である。
 自治体が公共工事を発注するとき、予定価格と最低制限価格を設定する。そして入札の際、予定価格より高い入札価格が提示された場合は「不調」となり、改めて入札をやり直す。逆に最低制限価格より低い入札価格が示された場合は「失格」とされ、入札業者は指名停止処分になり、役所はこれを最も嫌がるという。
 つまり「入札制度とは、この予定価格と最低制限価格の範囲内で価格と受注業者を決定するもので、談合はこの価格と業者を業界内であらかじめ決めておくということだ。そして役所は自分たちが見積もった価格と入札価格が違うと面倒になるから、それとなく業者に教えている。業者が入札前に価格がいくらになるか知っているから、入札がスムーズに運ぶことになるんだ」(業界OB)
 さまざまな公共工事で入札価格が予定価格と寸分狂わないで落札されるのは、こうした政・官・業が水面下で結託しているからにほかならない。現在、宮城県政は官製談合の解明に躍起になっているが、この三位一体の癒着構造にメスを入れない限り、真の解明・改善はあり得ないだろう。
 一方、業界内の談合システムはどのような構図になっているかというと、概ね以下のような形になっている。
 もともと談合システムは江戸時代の株仲間から端を発したと言われ、その目的・実態は新規参入業者を排除した既存業者の利益配分システムであり、暴力的な行為を除けばマフィア的な性格と組織に近い。業界各社には「談合担当者」がおり、彼らは自らあるいは自社の営業担当者が政治家や各自治体職員、設計業者などに接触して公共事業に関する情報を入手。これらが談合の差配役にもたらせられることになる。
 実は談合とは言うものの、各々の工事をどの業者が受注するかについては、各社の談合担当者が話し合いで決めるわけではない。差配役がほとんど独断で裁量する。この受注の判断基準になるのは、@各社への工事の配分、A自治体への浸透度、その工事に対する積極度−−などで、これらを勘案して受注会社を決定するという。
 差配役が決定したことは絶対服従しなくてはならない。これが談合システムの鉄則とされている。
仮りに反発・不服を唱えたらどうなるか。「次からは仕事が一切取れなくなる。その業者が狙っている工事に、別な業者を押し込めるのはわけもないし、実際に反発したばかりに『そうしてもいいのか』と脅かされた会社もある」(業界OB)という。
 現在、東北地域の差配役は鹿島が行なっており、談合システムの頂点に君臨するのが伊東宗一郎氏なことは、つとに知られている。鹿島がなぜ東北地域で業界の盟主として君臨し、談合を仕切れるのか。その理由は鹿島が談合システムを構築した張本人だからである。事情通がこう説明する。
「鹿島の中興の祖と言われる鹿島守之助(故人)は、経営者と同時に政治家でもあった。つまり政・官・業のトライアングルの構図の真っ只中にいた。それで談合システムを築き上げたと言われている。もちろん鹿島だけが利益を独占するわけにはいかない。そこで地域ごとに大手ゼネコンが支配することにし、東京は大成建設、名古屋は竹中工務店というふうに分け、鹿島が東北を差配することになったんだ」
 差配役は公平でなくては業界秩序が維持できない。だが、公平ばかりでは自社の利益が保てない。
この点、鹿島のサジ加減は実にしたたかである。東北管内における大手ゼネコンの大型工事受注比率は、鹿島が15%でトップ、以下、大成建設、清水建設などスーパーゼネコンは一様に10%と横並びにある。ここ数年、公共事業が激減しつつある中で、めぼしい工事を鹿島が受注しているのは、自らの牙城を確保していこうという現れとも言えなくない。
 こうした鹿島の独善的とも言えるやり方に、反発が全くないわけではない。苦り切っている業者も少なくないという。だが、そうした憤りが表面化しないのは、業界全体にジレンマがあることによる。ゼネコンOBはこう指摘する。
「長引く不況もあって、建設業界は弱体しつつある。その中で自由競争になれば乱戦になり、値崩れも起き、業者は確実に取れる工事も取れなくなる。経営が厳しいからこそ、談合にすがって配分にありつくしかないのが現状だし、このため談合システムは必要悪として維持されるだろう」
 そのことは取りも直さず「鹿島による東北支配」が続くことを意味していると言えるだろう。
 
 
 
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