
政治家は概ね2つの人種に分類することができるだろう。1つは「自ら神輿に乗りたがるタイプ」で、この手の政治家は概して目立ちたがり屋であり、政治手法もトップダウンになる傾向が強い。もう1つは「神輿に担がれるタイプ」で、こちらの人種は「担がれた」という意識がそうさせるのか、ボトムアップ型の手法を取る指導者が多いようである。
藤井市長は後者に属するだろう。実際、藤井氏は前市長のゼネコン汚職に伴って行なわれた、平成5年の市長選では「周りから担がれたが、何度も逡巡した末に出馬し、当選したものの薄氷の勝利だった」(議)。
当時は「(藤井氏が)市長になること自体が驚きだった」(仙台市OB)とまで言われたものである。その前歴を見ても、企画局次長から教育長というように、専ら地味なポジションを辿ってきている。人柄にしても「大陸的というか茫洋とした感じ。今でも政治家という体質は持ち合わせていないし、一言で言えば文化人」(仙台市OB)と評する向きが多い。
このためなのか、3期目に入った今に至っても「政治能力は未知数」とか「指導力を発揮しているように思えない」との声が議会筋から挙がっている。今3期で「有終の美を飾る」ことが半ば公然と囁かれている人物の、政治能力が未知数とは苦笑するしかないが、ではこれまでの市政運営に大きな失点があったかというと、そうした指摘も格別見当たらない。
3期目の現在、市政運営について、藤井市長はこれまでの2期8年を踏まえて、次のように述べているという。「1期目は前市長のゼネコン汚職で失墜した市政の信頼回復に全力投球した。2期目は『百年の杜構想』や『アクセス30分構想』など、仙台市の将来構想を打ち出してきた。そして3期目のこれからは、2期目に掲げた将来構想を確実に事業化して踏み出していく」−−と。
藤井市政はことさらにビジョンや実績をアピールしてこなかったことと、市長自身も目立たないせいもあってか、地味な印象というか「見えにくい市政運営」なことは否定できない。だが、一方において「やるべきことは粛々と推し進めてきた」(仙台市幹部)ことも認めざるを得ない。
その典型的な事例としては、前市長が残したところの「負の遺産」の一掃が挙げられるだろう。藤井市政がスタートした当初、いの一番に取り組んだのは前市長が手がけていた全事業の見直しであった。継続するか、打ち切るか、丹念に篩にかけて選別し、社会・経済情勢、将来性を見据えて優先順位を勘案した。同時に、前市長が雨後の筍のように設立した外郭団体についても見直し、統廃合を図ってきた。
これら「負の遺産」の一掃を最優先課題とし、多分な時間を費やしたことから、藤井市政に対して議会筋から「政治能力の欠如」「市政運営に不安」などの批判が起こった経緯がある。だが、この結果、前市政の残滓を引きずることなく、新たなスタートを切ることができた。事実、藤井市政の2期目以降、前市長の「負の遺産」について議会が言及したことは皆無と言えるし、市民の口の端にものぼっていない。
この点、前知事の事業の全てを継続し、外郭団体の整備が今に至るまで手つかずで、このため財政危機に直面し、議会から批判が集中している浅野県政とは好対照と言えるだろう。
ちなみに言えば、財政状況については、仙台市も宮城県庁や他の市町村と同じように重要課題になってはいる。平成12年度決算では市債残高が約6642億円と過去最高。財政の硬直化を示す経常収支比率は83・2%。公債費比率(一般財源に占める公債費の割合)も15・3%と「警戒ライン」の15%を超過。厳しい状況にあることは確かである。
こうした中で藤井市長は3期目のビジョンとして、@百年の杜構想の実施、A地下鉄東西線の整備、B高規格環状道路網の整備、C長町副都心計画の実践−−という大事業の推進を提示。これが先の市長選の争点になり、議会からも見直しを求める声が挙がった。しかし3選されたことで、藤井市長はこれらの事業の推進も支持されたものと判断し、遂行していく構えを崩していない。このため議会などから「財政危機の中で、いったいどうやって進めるつもりなのか」と懸念視されている。
実は、仙台市の財政は厳しいものの、マスコミや議会が喧伝するほど危機的状況には至っていない。自治体の「貯金」に当たる財政調整基金・都市整備基金・公共施設等整備基金は歳入が年々落ち込んでいることもあって、平成12年度ベースで133億円と毎年取り崩されてはいる。だが、基金はこれ以外にも高速鉄道基金・百年の杜づくり推進基金など、合計すると15の基金がある。これらは使途目的が決まっているとはいえ、基金全体を加算すると、仙台市の「貯金」は実に1370億円余もあるのである。
しかも、松森ゴミ焼却場の用地取得やメディアテーク、シェルコム仙台などの経費負担の大きな事業は終了。このため平成13年度の普通建設事業費は前年度よりも下回っている。仙台市は平成10年度から財政構造の健全化を掲げて予算編成を行なってきているが、同年度以来、普通建設事業費は年々減少している。この点、県政や各自治体の財政基盤が風前の灯の状況にあることを思えば、雲泥の差があり、この不況下にあって、これだけの財政的備蓄を図りながら、なおかつ進めるべき事業を遂行してきた藤井市政の手腕は、誉められこそすれ、批判されることはないといっても言い過ぎではないだろう。