県民不在の中で、県民生活に全く寄与しない事柄に、県政が翻弄されている。県警報償費問題だ。
この問題が浮上したのは、平成14年3月に報償費の監査を要求したことに端を発する。以後、報償費問題は県政の重要問題と化し、県議会やマスコミが取り上げ、今に至っている。それもこれも浅野史郎知事が血道を上げているからにほかならない。
知事の言い分は「捜査協力者の名前を明かせ」「報償費がどのように使われているか、詳細を明らかにせよ」というもの。これに対し県警は「捜査に支障があるため、協力者名も詳細も明らかにできない」と主張。両者は平行線のまま対峙している。
この間、知事は自ら報償費の実態を探るべく「聞き取り調査」を行なった。
一人は宮城県警元幹部で、定例記者会見における知事の発言によると、平成14年5月以降に一度会い、1時間ほど面談。「初対面だが、名前・住所・経歴は事前に知っていたし、実在する人物」(知事)だという。この県警元幹部は「報償費の99%が架空で、裏金になっていた」と発言したらしい(知事は記者会見でそう述べている)。
もう一人は北海道警元釧路方面本部長の原田宏二氏で、北海道警の裏金づくりを内部告発した人物。知事は今年4月30日に知事公館で約2時間面談。原田氏は自らの体験を基に、以下のような発言をしたようだ。捜査協力者の存在については「本当の意味での協力者はいるが、その数は極めてゼロに近いし、協力者の存在が架空の可能性もある。協力者は危険性があるため公式の支出文書には記載されない。謝礼の必要があれば支払うが、それはごく一部で、多くの協力者が謝礼をもらっているとは思えない」。一般協力者への謝礼は「所属長時代も含めて、私は支出の決済をしたことがない。警察組織には情報を得るために金を払う文化はない」。そして報償費の実態について「ほとんどが裏金になっており、幹部のヤミ手当や部内の飲食に使われた」と述べている。
この二人の発言を受けた知事は「(証言は)非常に大きな意味をもち、聞き捨てにできないと感じた」(宮城県警元幹部の発言に対して)「非常に重い証言。具体的な実感が得られた」(原田氏の発言に対して)との感想を洩らしている。
しかし、二人の証言をよりどころにした知事の認識は明らかに間違っているし、矛盾していると言わざるを得ない。
偏見・飛躍しすぎる
知事の判断
第一に、たった二人の証言だけで「報償費が適切に執行されておらず、裏金づくりになっている」と断定することのおかしさだ。
たとえ原田氏の話が事実だったとしても、それは北海道警のことであり、それによって宮城県警も同じだということにはならない。同様に、宮城県警元幹部の発言が本当だったとしても、県警全体がそうだと言えるものではない。二人の話はあくまでも自分が関わった部署だけのことで、それをもって組織全体がそうだと決めつける知事の判断は明らかに間違っている。
第二には、知事の判断が余りにも飛躍しすぎていることである。
二人の証言者は「捜査協力者はいない」とは一言も発言していない。「極めてゼロに近い」(原田氏)とはいえ、存在することを認めている。しかも先にも触れたように、二人の発言は自分の領域に基づいたことのみである。自分の協力者はゼロに等しかったかも知れないが、それで組織全体を論じるのは間違っているし、正確な認識を損なうことになる。
ところが知事は「捜査協力者が実在しないことを前提に、今後行動する」と過激な姿勢をみせている。どこからこうした判断が出るのか、不思議としか言いようがあるまい。
第三には、知事の言動が矛盾していることである。
前述したように、知事は宮城県警元幹部と会ったと述べている。報償費の実態を知るために「聞き取り調査」したのだ。知事はこの人物が誰なのか明かしていない。恐らくその立場を配慮したからに違いない。つまり知事にとって元幹部は「捜査協力者」だったことになる。知事ですら明らかにできない協力者の名前を、県警に明かせというのは明らかに矛盾した行為である。
第四としては、知事のスタンスが不可解なことである。
それには報償費とは如何なるものなのかについて触れておく必要があるだろう。知事の発言とそれを受けたマスコミ報道による解釈が一人歩きしている感があるからだ。
報償費は正式には「犯罪捜査報償費」という。マスコミ報道の影響から、報償費は捜査協力者や一般の情報提供者に支払われる謝礼だけと受け止めている人が多いようだが、それだけでなく犯罪捜査活動にかかる全費用が報償費の対象になる。捜査員の経費も含まれるものなのだ。