―現在の建設業界の現状は?
奥田 国の場合、ピーク時の平成
10年度の一般公共事業費は14兆円
だった。それが平成16年度では7.
7兆円と55.2%と約半分に落ち込
んだ。地方単独事業(国の県・市町
村における全体数)もピーク時の平
成5年度は17.9兆円あったが、平
成14年度には10.1兆円と約56%に
まで下がっており、平成16年度はさ
らに落ち込む見通しだ。宮城県の場
合は平成15年度でピーク時の46.1
%と、半分以下になっている。
―この激減の要因は何ですか?
奥田 自由主義経済の中では需要
と供給のバランスが崩れると、当然
価格に変動が起こる。このことはか
つてのオイルショックを思い起こせ
ばわかるだろう。石油がない、トイ
レットペーパーがないということで
、当時は急激に値段が上がった。逆
に過剰になると価格は下がる。これ
が自由主義経済の基本原則だ。
宮城県は公共工事の一般競争入札
、いわゆる入札契約制度を平成13年
に大幅に改正し、この入札制度の改
正と時を同じくして、公共事業費が
激減したことによる。それまでの入
札契約制度では、一般競争入札は1
億円以上(一部は5千万円以上に試
行)だったが、これを1千万円以上
に引き下げ、しかも入札資格のない
者まで参加できるようにした。技術
者がいなくても、入札価格が安く提
示すれば契約・落札できるようにし
たんだ。
入札制度と公共事業激減の二重苦
―技術者がいなくてもいいとは、どういうことですか?
奥田 契約する段階で技術者を入
れてくればいい、通年雇用しなくと
もいいということだ。例えば、ある
会社は今、技術者がいない。それで
も入札して落札した。そこで契約す
る前に別の会社から技術者を雇えば
いいという方法だ。国は「通年雇用
は3ヵ月以上でないとダメだ」と通
達している。ところが宮城県は、落
札決定後に技術者がいればいいとい
う仕組みだ。ここが節穴で、県の公
共事業は落札してから技術者を入れ
てくればいいわけだから、誰でも仕
事が取れることになる。
―これでは体のいいごまかしで
ないですか。
奥田 だから私は「技術と経営に
優れた企業でないと、いい仕事はで
きないよ」「やっぱり適正な価格で
良質な公共事業を納めて、国民・県
民に安全で安心なものを提供しなく
てはダメだ」と言っている。ところ
が県は「価格が安いということは透
明・競争性でいいではないか。県民
から税金を預かってやっているのだ
から、いいじゃないか」と言う。良
質なインフラ整備がそれでできるな
らいい。しかし常識で考えてほしい
。安くていいものなんてできっこな
い。
―実際、粗悪工事が出てきていますね。
奥田 今年の4月1日に指名停止
・行政処分を受けた業者は15社ある
が、このうち粗悪工事は6社だ。こ
れらは建設業協会の会員ではなく、
いわゆるアウトサイダーだ。協会の
会員は良識がある。技術研鑽や人材
育成をしており、真面目に仕事をし
ている。でも一つぐらいは安くても
やろうかという気持ちになってもお
かしくない。それだけ厳しい状況に
あることは数字が証明している。
全国の中小建設業の収益率は当時
、売上高に対して4.3%あった。
それが昨年の収益率は1.23 1.
24%にまで下がっている。この数年
間で利益は3分の1になったわけだ
。一方、宮城県の落札率は平均で79
.4%だ。収益率が1.2%下がっ
ているのに、落札率を20%強もどう
して引けるのか。どこかでごまかさ
ないと仕事ができないということだ
し、ごまかしていることにほかなら
ない。そしてこれが粗悪工事の原因
になっている。
しかも、こういう状況になると、
元請け業者は下請け業者をいじめな
いと仕事ができない。元請けが赤字
では倒産してしまうから、下請けを
いじめることになり、これは労務者
いじめにつながる。
―労務単価が著しく下がってい
ると聞きます。
奥田 県庁職員は「緊急経済産業
再生戦略」で給与が3.2%削減さ
れて批判しているが、建設業の場合
、そんなものではない。労務単価は
ピーク時の平成10年度の1万965
0円から、平成16年度では1万33
17円と実に32.2%も下がってい
る。県庁職員の3.2%カットとは
ケタ違いだ。こういうことが県民は
わかっていない。
そのため私は「県内の建設業で働
いている人たちの年収が減ることは
、個人消費が上向かない」と浅野知
事に言っている。景気は上向かない
し、雇用促進にもならない。3年前
に県内の建設関連労働者は11万8千
人いた。これが平成15年度末で11万
2千人と6千人減っている。公共事
業量が38%も減ったのに、雇用は10
%まで減っていない。何故かという
と、建設業が賃金を安くして雇用を
抱えているからだ。全国ベースで全
産業に占める建設業の就労人口比率
は9.8%。宮城県は11.8%で、
東北全体では12.8%。つまり東北
地方は他の地方に比べて建設業が雇
用を支えている割合が高い。基幹産
業であり、この基幹産業が元気がな
いのだから、県内の景気がよくなる
はずがない。
―浅野知事並びに県は「財政が
厳しいから公共投資を抑える」方針です。
奥田 それでは現在の11万2千人
の就労者をどこにシフトするつもり
なのか。郡部を見てほしい。農林水
産業の第一次産業は衰退している。
建設業が低落したら、この人たちは
どうする? 郡部にはサービス業は
ない。地方の経済を支えていくのは
、やはり公共事業しかない。それに
地方は公共事業・社会資本整備はま
だまだ遅れている。
憲法25条には「国民は等しく文化
的・快適な生活を営むことを権利と
する」と謳っている。例えば、都市
に住んでいる人が病気になって救急
車を呼んで病院に行くまで8分以内
で着ける。ところが田舎では25〜30
分かかる。これは道路網が整備され
ていないからだ。人間の命が都市と
地方で格差があっていいわけがない
。これでは憲法25条に掲げられてい
る権利が、地方では守られていない
ことになる。この権利を守るために
も道路網の整備が必要で、ネットワ
ーク化しなくてはならない。縦貫道
を造ったからいいということではな
い。枝線がないと。
―5月19日に開かれた「建設業
協会の定時総会・懇親会」で、知事
は「私は公共事業罪悪論だとは思っ
ていない」と述べましたが。
奥田 思ってはいないだろうが、
でも、やっていることは違う。そう
知事に言うと、知事は「そのうち景
気もよくなるはずだ。景気がよくな
れば県財政もよくなるから、そのと
きは公共事業を増やす」と言う。で
も、金があったときは誰でもやれる
。国の財政をどうにかしてでも集め
てきてやることが政治であり、行政
の最高責任者としての仕事なはずだ
。県のお金があるときにやるなら、
誰でもできる。そして、この実態を
県民はわかっていない。浅野知事も
わかっていないのではないか。私は
知事を批判しているのではない。現
実がこうだと申し上げている。
―あのパーティーには知事のほ
かにも国会議員・県会議員が来賓と
して出席していました。
奥田 ああいう人たちが動かない
、動いてくれないのが不思議だ。 |