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施設解体宣言」を突然発表した浅野知事と田島良昭・前福祉事業団理事長(左) |
平成14年11月23日、田島良昭・宮城県福祉事業団理事長が唐突に「施設解体宣言」を発した。福祉事業団内の施設「船形コロニー」は知的障害者の中でも重度の障害をもつ人達を受け入れているが、この施設を解体し、入所者を地域生活に移行させるというものだ。平成16年2月21日には、浅野史郎・宮城県知事も「宮城県内の知的障害者施設を解体し、入所者の地域移行を図るべき」との「みやぎ知的障害者施設解体宣言」を行ない、「将来的には身体障害者施設などにも広げていきたい」と述べた。
その後、今年4月1日に福祉事業団は宮城いきいき財団とともに宮城県社会福祉協議会に編入・統合されたが、この「施設解体宣言」に基づき、入所者の地域移行が主要な施策として現在も実施されている。入所者数人を一グループにして、各地域内で共同生活を行なう「グループホーム」がそれである。
ところが、このグループホームでトラブルが生じている。以下に記すのは小誌が掴んだその一例である 。
感想を洩らした直後に無断で解約・引っ越し
県北のある町に住むAさん夫婦はそれまで商売をしていたが、止めて失職中。そのためハローワークに通い、運よく新しい仕事が見つかった頃に、知り合いから「船形コロニーがグループホームをやってくれるところを探している。やってみたら」との話を受けた。Aさんは船形コロニーの総合施設長が先輩で旧知の間柄だったこともあり、考えてみることにした。
今年2月8日に船形コロニー側と打ち合わせ。2月14日にはコロニーの担当職員と敬風園職員(編集部注/敬風園は福祉事業団内にある特別養護老人ホーム)がAさん宅を見に来て、今後のスケジュールなどを話し合う。この時点でAさんがグループホームとして受け入れることが決定した。
直ちに部屋を一つ増設し、内装に取りかかることになった。内装はコロニー側の責任でやることになったが、部屋の増設はAさん側が行なうことになり、このためAさんは二人の娘を仙台市に引っ越させることにした。その結果、部屋増設費に約50万円、娘の引っ越し費用に40 50万円かかった。また、移り住む知的障害者が安心して暮らせるようにと、家財道具もかなり処分した。これらの作業は2月26日に5人の利用者とその家族の見学会があるため、Aさんによれば「突貫工事のように急いでやることになった」という(編集部注/実は当初、Aさんは4月1日から住んでもらえればと考えていた。この点は後述する)。
3月1日、グループホームが開設。その後、Aさん夫婦と5人の利用者の関係は良好で、問題はなかった。3月23日、コロニーの担当職員と敬風園職員が来て「意見があったら聞かせてほしい」と言うので、Aさんは気軽に日頃感じていることを正直に述べた。例えば、当初の話では世話人三人体制で朝・日中・深夜とつないでいくシステムということだったが、その後世話人が一向に配置されず、Aさん夫婦だけで切り盛りしなくてはならないこと、一日働いて6200円という賃金は最低賃金ぎりぎりなので、もう少し増額できないものか などを話した。
これに対して職員から「人件費分は出ないことになっている。大家さんの考えは福祉ではない」と批判され、そのため言い合いになった。翌日、Aさんは少し言いすぎた面もあったと思い、コロニー側に電話してその旨を話し「きのうの発言は撤回します」とお詫びした。
ところが、その翌日の3月25日にコロニーと敬風園側はAさんに無断で不動産屋に解約手続きをしたのである(編集部注/グループホームの受け入れについては、一般のアパート賃貸契約と同じように不動産屋を仲介して行なっているケースがあり、Aさん夫婦の場合もそのように進められた)。それだけでなく3月30日にはAさん宅から利用者全員を連れ出し、同じ町内の民家を借りてそこに住まわせてしまったのだ。
グループホームの数字達成偏重に問題が?
こうした強引なやり方にAさんは激しい怒りを覚えた。
このため3月28日に福祉事業団本部に陳情する。ところが、対応した職員は「そんな話は初めて聞いた」という。しかも驚くことには、福祉事業団が県に新しいグループホームを申請する期日が3月25日で、この25日付けの申請書には「Aさんの家を借りてグループホームをやっていること」が記載されている、と職員が説明したのだ。その夜、この職員からAさんに電話があり「コロニーに確認したところ、あなたの話は本当だった。今後は現場の担当者と話し合ってほしい」と繰り返したという。
これを受けて、Aさんはコロニーと敬風園に対し、その対応に何度か抗議した。「何よりも利用者に気に入ってもらっていたのだから、以前のようにグループホームができないものか」と訴えたのだ。しかし、コロニーと敬風園からは「Aさん夫婦は福祉に理解がなく、世話人としてふさわしくない。こうなったのは大家さんの責任だ」と冷たく言われてしまう。
さらにAさんは「自分たちがダメというなら、私たちは別に引っ越してもいい。せっかく家を改装までしたのだから、グループホームとして継続使用してほしい」とまで申し出た。が、それについても「今となっては無理」と跳ね返された。 4月8日、Aさんはコロニーに今までかかった費用分として150万円の請求書を送った。部屋の増設分と娘二人の引っ越し費用、さらには突然の一方的な世話人解雇は違法行為だということで、その一定の賃金補償を含めて150万円と算出したものだ。
4月19日にコロニー側から回答が届く。「責任はAさん側にあるので、一切の費用請求に応じる意思はない」というものだった。
このためAさんは県に事態を知ってもらい、県の指導で是正・解決してもらうしかないと判断。県障害福祉課に連絡し、4月21日に話を聞いてもらうことになった。だが、ここでも「福祉事業団から正式な回答書がきているとなれば、県として指導することはできない」と退けられた。
現在、Aさん夫婦は労働基準監督署に訴えることを考えており、併せて裁判所に提訴することも検討しているという。
この事例からはさまざまな問題が浮かび上がってくる。 第一には、グループホームの数値重視思考である。
前述したように、Aさん夫婦はグループホームの話を聞いてやることにしたものの、それは4月1日からの開設を想定していた。2月14日に事実上の契約が完了し、その後の部屋の増設、内装工事、娘の転居などを考えれば、このスケジュールは当然だろう。ところが、コロニー側はなぜか3月1日からを主張し、そのため急ピッチで改装、開設することになった。Aさんによれば「年度内でなければダメという感じだった」という。
この背景には「施設解体宣言」に伴い、福祉事業団とその職員が地域移行の成果を上げなくてはならないという、半ば「強制的な指示」が行なわれていることを窺わせる。グループホームを行なう場合、本来なら障害者の障害の度合いや性格・行動の仕方などを熟慮し、どういう組み合わせなら問題なく共同生活できるかを検討した上で、数人を一つのグループに選んでいく必要がある。事故やトラブルが起こる懸念があるからだ。もちろん、地域移行ということからして、生まれ住んだ地域に近い人たちを一緒にということも考えなくてはならない。
ところが、福祉事業団はそうしたことを無視して進めているという指摘がある。「ただやみくもに地域に出せばいい、グループホームの数が増えればいい、という傾向があります。つまり量(数値)を重視して、肝心の質が伴っていない。このためグループホームに移行した障害者がうまく順応できないために、コロニーに戻ってくるケースも結構あります」(福祉事業団関係者)
ちなみに言えば、県や福祉事業団は地域に移行した数を公表しているが、そのうちコロニーに戻った人数については明らかにしていない。この双方の数値が出されて、はじめて地域移行とグループホームの実態が把握できることになる。浅野知事が「福祉先進県」を掲げていることからしても、その実数がどうなっているのか。この点、県議会などで論議されるべきテーマである。
素人に障害者を任せる異常な感覚
問題の第二点は、世話人に対する待遇と姿勢である。 Aさん夫婦によると、グループホームの事前の説明の際、職員からトイレに行くのにも目が離せない人がいること、5人はいずれも重度障害者で、頭にヘルメットをかぶったり、座薬などの投薬が必要な者もいること などを聞いてはいた。つまり、単に食事の世話をすればいいというものではなく、介護・看護が必要な状態だったということだ。実際、夫人は障害者が夜中にトイレに行ったとわかると、出てくるまで待っている必要があったという。
それでもこうしたナイトケアについて、コロニー側は労働報酬の対象に含めていない。契約上は「日中8時間労働で一日6200円」としている。明らかに契約違反だし、Aさん夫婦の体調を損なう恐れが充分にある。しかもこの点について意見を言うと、「人件費がない中でやっているのだから我慢しろ」と言う。コロニー側は「世話人の補充など、いくらでもきく」と考えているような態度である。実際、Aさんがちょっと感想を述べたら、直後に契約解除したということは、そういう認識でいるからにほかならないだろう。
それ以上に、こうした介護・看護が必要な障害者を素人の夫婦に任せるという考え方に問題がある。ヘルパーの資格を持つ者を世話人にすべきなのに、そうしたことを少しも考えていないのだ。しかも前述したように「世話人3人体制」と言いながら、そのフォローもしていない。無責任のそしりを受けても否定できるものではない。
知事と田島氏はどう説明するのか!
問題の第三点は、トラブルに対して誰も責任を取らないということだ。 「施設解体宣言」に伴い、グループホーム化を実践していることからすれば、こうしたトラブルに対する最終的な責任は明らかに福祉事業団本部にある。同様に福祉事業団が県の外郭団体なことからすれば、県にも責任がある。ところが上は県庁・福祉事業団本部から、下は船形コロニー・敬風園に至るまで、誰も責任を取ろうとしていない。逆に「Aさん夫婦が悪い」の一点張りである。
このことからすると、県 福祉事業団 船形コロニー・敬風園という組織機構には意思の疎通や組織内の連携が微塵もないとの印象を受ける。こうしたことは民間企業ではあり得ることではない。
他方、Aさん夫婦との関係が悪くなるや否や、即座に別の民家に移転していることも不可解だ。これほど手際よく移転できたということは、事前にそうした準備がなされていたのではないかとも思える。それならば言葉は悪いが、Aさん夫婦は「ダシに使われた」ようなものであり、詐欺に合ったようだとも言える(現に結果的にそうなっている)。こうしたことを自治体とその傘下の外郭団体が行なっているとしたら、大きな問題である。
小誌はこのAさんのトラブル以外にも、同じようなケースが起こっていることを耳にしている。福祉事業団がとにかくグループホームの成果を上げるという数値重視を行なっている限り、こうしたトラブルは今後ますます表面化してくるとも思われる。
「施設解体宣言」の発案者は田島良昭氏であり、現在の県社会福祉協議会会長は浅野知事である。片や福祉実践者であり、もう一人は厚生省の福祉課長を経て知事になり「福祉をライフワークにする」と宣っている人物。ご両人はどう説明し、どのように責任を取るつもりなのか、じっくり観察したいものだ。
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