
再選を目指す伊藤康志・大崎市長 |
任期満了に伴う大崎市長選が来たる4月に行なわれる(4月11日告示、18日投票)。
現職の伊藤康志市長は2月12日、大崎市議会2月定例会の代表質問に答える形で、立候補を正式に表明した。
一方、本間俊太郎・元知事も2月18日、正式に出馬表明した。本間氏の立候補には、水面下で曲折があったという。事情通が解説する。
「昨年暮れに大崎市民病院の建て替え地を巡って、伊藤市長のリコール(解職請求)運動を繰り広げていたグループ(共産党市議や市民病院周辺商店街の一部商店主など)が当初、本間氏を擁立しようと、本間氏に接触した。しかし、本間後援会幹部から『選挙手法が合わない』『共産党が支持するとイメージが悪くなる』『リコールグループは選挙戦の主導権を握ろうとしている』など反発が出た。それで本間氏はリコールグループからの出馬要請を拒否し、後援会単独で立候補することにした」という。
このためリコールグループは水面下で第三の候補者の擁立を画策中。「佐藤仁一・元岩出山町長、佐藤昭一・大崎市議のいずれかを担ぎ出そうとしている」(事情通)と囁かれている。
リコールグループは集会で「必ず候補者を立てる」と明言し、そのためのカンパも募っている。「擁立しない」となれば、カンパ者を裏切ることになる。
まだ予断はできないが、選挙は三つ巴の戦いになる可能性がある(その後、佐藤仁一氏がリコールグループからの支援を受けて、正式に出馬表明した)。
元首長4人が「市長糾弾集会」に出席・批判を
1月31日、大崎市古川保健福祉プラザ(fプラザ)で「合併から早4年、新市に期待した将来像はどうなったか〜どうすれば実現できるか〜」と題したシンポジウムが開かれた。主催者はリコール運動を進めてきた中心メンバーの面々。表題からすると、大崎市の将来について語り合う真面目な集会のように思えるが、実体は「市長を糾弾、追い落としのための集会」である。
中身は病院問題に終始し、新たな建て替え地として穂波地区に決定した現市長を非難。あくまで現在地での建て替えを求め、その実現のための市長選候補者を擁立するというものである。
ちなみに、この集会を含めリコールグループの集会には、吉田正義・前大崎市民病院病院管理者が毎回出席し、市長批判をぶち続けた。このため病院スタッフや執行部から怒りの声が挙がっている。
「彼は用地交渉の責任者だ。彼がうまくまとめれば、現在地での建て替えができた。それができなかった。当事者として関わった人間が、市長を悪者にして批判の急先鋒に立ち、内部のことをペラペラ話している。守秘義務がある公務員としても、人間としても失格だ」
実際、集会の発言者の中で最も長く、最も過激に市長批判をしているのがこの人物で、すでに決着した病院問題を煽っている首謀者の一人である。
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| 再び出馬した本間俊太郎氏(写真は前回の市長選) |
愕然としたのは、この集会に佐々木謙次・元古川市長、鹿野文永・元鹿島台町長、佐藤仁一・元岩出山町長、狩野猛夫・元松山町長の4氏が参加していたことだ。参加するだけでなく、以下のような伊藤市長批判を公然とぶったのである。
「伊藤市長は病院問題で市民に不安・不満を与え、対立感情を引き起こした。市民病院の建て替え地については、これまで充分に吟味して現在地に決めたものだ。それを覆すのであれば、これまで検討・決定してきたことは何だったのか。市長選ではどういうトップを選び、どういう行政をしていくかだ」(佐々木氏)
「伊藤市長は病院問題でどういう責任を取ったか。何もしていない。伊藤市政下で職員が辞めたり、精神的に参っている。選挙では市民のための市長を選んでいきたい」(鹿野氏)
「前市長選で我々7人の首長は現市長を支持したが、間違った選択をした。判断を誤ったから、私は今ここに立っている。次期市長は現市長ではダメだ。新しい市長を当選させよう」(佐藤氏)
「我々1市6町の首長は、合併に当って新市の将来像を話し合った。私がこの場に来たのは、市の将来像をこの集会参加者がどう考えているか、知りたかったからだ。市長選ではこの4年間、現市長が何を具現化してきたかを問うべきだ」(狩野氏)
ご覧のように、正論を吐いたのは狩野氏のみ。あとの3氏は現市長の弾劾に与した。主催者は喜んだであろう。参加してくれるだけでも効果大なのに、同調する発言を公然としてくれたのだから。
決着がついた「病院問題」を再燃させる“愚行“
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| ここで建て替えても環境は改善しない(大崎市民病院) |
4氏が現市長追い落としの先陣に連なったことは重大である。
市民病院の建て替え問題については、現市長は先の市長選で「現在地で建て替えする」と公約した。しかし、その後、諸々の条件・課題を再検討した結果、穂波地区への移転・建て替えを決定。昨年の臨時議会に提案し、賛成多数で議会は可決・承認した。
一方、前述したように、この決定を不服とするグループが「現在地での建て替え」を主張し、市長のリコール運動を展開したが、署名数が足りず、リコールは不成立に終わった。
市執行部の進め方は議会に諮り、可決・承認という正当な手続きを踏んでいる。リコール推進派も住民の権利を行使したもので、民主的手続きに沿っている。その結果、リコールが不成立に終わったということは、民意は穂波地区への移転・建て替えを認めたということであり、必然的に病院問題は決着がついたことになる。
このことからすれば、リコール推進派が4月の市長選の第一の争点として病院問題を再燃させることは、最高議決機関が決定し、民意も支持した事柄を反故にすることであり、これがまかり通るとなれば、執行部と議会の役割・権能はなきに等しく、民意をないがしろにするものと言えよう。
その運動に元首長4氏がどういう理由・形であれ加担したのは、これまで行政を司ってきた首長経験者としての見識を疑わざるを得ない。「病院建設地は現在地にする」と公約した本間俊太郎氏にも同じことが言える。
地元県議の一人は「これで市長選は否応なしに市を二分する選挙になるだろう。市長と元首長との間で何があったか分からないが、市長に対して大所高所からの意見・アドバイスは別な形でもできたろうに」と嘆く。
病院問題について記せば、現在地での建て替え派(反市長派=リコール推進派)の主張は単眼視的であり、「市長は公約違反だ」「病院が移転すれば、台町・七日町の商店街は寂れる」ということに尽きる。現在地での建て替えの方が穂波地区より有益だという根拠を示さなくては、なぜ現在地の建て替えがよいのか判断できないはずだが、そうしたデータや比較論は、これまでの集会では一切なされていない。
「公約違反」云々にしても、果たして公約が必ず遵守しなければならない、絶対的なものなのかどうか。大崎市周辺の首長はこう述べている。
「大崎市長や執行部は大局的な見地から判断してどこが適地かを検討・提案し、議会も承認した。その手続きと判断が批判されるべきものとは思えない。民主主義の点から言えば、議会の議決は尊重されてしかるべきだ。公約違反だと市長は批判されているが、マニフェストに固執するのは行政の怠慢になると思う。マニフェストは選挙中に提示されるが、当選していざ市長に就任すると、情報量が格段に増えるものだ。それまでとは立場が異なるわけだから、当然判断も変わってくる。マニフェストにしがみついたばかりに最悪の判断をすることにもなりかねない」(布施孝尚・登米市長)
「病院問題を政治的に利用するのはどうかと思う。公約違反だと言うが、病院は建設地の場所を変更するだけだ。公約違反になるはずがない」(佐藤澄男・加美町長)。
「病院移転はマニフェスト違反だというが、現在地について検討し、その結果移転に踏み切ったものだ。建て替えをしないというなら公約違反だと指弾されても致し方ないが、建設することは確かであり、その場所を総合的な角度から検討して変更することにしたものだ。しかも議会が大差で可決承認している。公約違反になるものではない」(跡部昌洋・大衡村長)
実際、移転決定までには次のような経緯があった。
大崎市は昨年3月に「大崎市民病院基本計画」を策定した。現在地の用地を拡大して建て替えるためには、この計画に沿った用地確保が前提になる。ところが計画通りの用地確保ができなくなったことから、基本項目をクリアすることができなくなった。新しい病院は、現在使用している治療用装置の耐用年数の期限や、国の財政支援の期間条件などから、平成25年度中に完成しなければならないという時間的な制約がある。
そのため市は、現在地や穂波地区の市有地を含めた候補地5ヵ所について比較検討した結果、開院までの事業期間の短さ、総事業費の低減さなど、あらゆる点から考えて基本計画に沿った病院建設地として穂波地区の市有地が最も適していると判断。この案を市議会に諮り、議決されたものだ。
現在地が抱える致命的な欠陥
「病院が移転すれば商店街が寂れる」という主張に対しては、「市民病院の役割・将来像を少しも考えていない。自分たちのエゴではないか」(大崎市周辺の住民)との声が少なからず上がっている。
しかも、現在地での建て替えは致命的な欠陥がある。
第一は、診療と建設工事の同時進行は現実的に不可能なことだ。工事のために市民病院は休院できない、休院させないことが前提になっている。震動・騒音の中で適切な診察・治療・手術ができるとは思えない。
また、工事となればダンプカーなど建設用車両が頻繁に出入りすることになる。大崎市民病院は救命救急センターがあり、救急車が頻繁に飛び込んでくる。その際、混乱が起こる不安が絶えず付きまとう。しかも市民病院周辺は道路幅が狭く、今でも交通渋滞が頻繁に起こっている。
救急搬送は一分一秒を争う。病人の生命に関わる。宮城県は県内で119番通報から病院収容までに要した平均時間が37分(2008年)と全国41位。こうした状況は現在地での建て替えでは何一つ改善されないことになる。
加えて、分散している駐車場の問題もある。
第二は、災害時の対策だ。現在地建て替え派は「穂波地区は地盤が弱く、病院のような高層建築では地盤沈下が起きる」「地震が起これば液状化現象が起こる」と主張している。
そのため市は穂波地区の地質調査を実施した。その結果、地盤の深さ26メートル付近と39〜50メートル付近に建築物を支えることができる地盤があり、地盤の固さを示す「N値」はどちらも50以上で基準を満たしており、建物を支える杭(くい)を打ち込むのに問題がないことが分かった。地震発生時に液状化の恐れがある地層も見つからなかった。
地震が発生したらどうなるか。現病院周辺の道路の狭さ、密集した民家からすれば、現在地での緊急避難は困難である。避難場所も周辺にはない。
穂波地区なら道路の幅員も広く、隣接して小学校(体育館・校庭がある)、大崎生涯学習センター(パレットおおさき)、家電店(広い駐車場スペースがある)があり、避難場所として利用できる。
第三は、最も重要なことだが、病院スタッフの多くが「現在地での建て替えでは建設上の制約条件があるため、配置などの面で自由な発想ができない。自分たちが考え、造った病院という意識が持てない」と述べていることだ。つまり「使い勝手が悪い」と言っているのだ。
病院建設に当たっては実際にそこで働く人たちの意見は重い。この発言一つとっても、現在地での建て替えはできないし、するべきではないということを物語っている(ちなみに利用者からも「現在地は不便だ」と指摘する声は多い)。
これらの点からしても、病院建設地として現在地がふさわしくないのは明らかである(総工費・工事期間も穂波地区が割安で短い)。
今回の病院建て替えに際して最も重要なことは、「大崎市民病院の機能・役割とは何か」という本質を見据えることである。このことを抜きにして新病院建設地の選択・決定はあり得ない。一言で言えば、大崎市民病院は総合病院であり、大崎市民だけの病院ではないということだ。
大崎市民病院の診療科目は内科(腎臓人工透析を含む)・循環器科・消化器科・リハビリテーション科・小児科・皮膚科・精神科(メンタルケア)・放射線科・外科・脳神経外科・泌尿器科・整形外科・産婦人科・耳鼻咽喉科・眼科・麻酔科・形成外科・歯科口腔外科と多岐に渡っている。また、救命救急センター・地域がん診療連携拠点病院・災害拠点病院・第二種感染症指定医療機関・地域周産期母子医療センターなどの指定を受けている病院でもある。
これほどの診療科目を備え、指定を受けている病院は県北地域には他にない。つまり大崎市民病院は大崎市はもとより県北の基幹病院として位置づけられており、重要な役割を担い、今後もその機能と役割は増してくるということだ。
このことは病院の利用状況を見れば一目瞭然である。平成20年度の大崎市民病院本院の外来患者数は25万4224人。このうち大崎市内の利用者は約14万6千人(57・6%)、加美郡約2万7千人(10・8%)、遠田郡約2万9千人(11・5%)、栗原圏域約2万6千人(10・4%)、登米圏域約1万8千人(7%)、その他約6千人(2・3%)となっている。入院患者数は全体で13万8505人。そのうち大崎市内が約6万8千人(49・5%)、加美郡約1万7千人(12・3%)、遠田郡約1万5千人(11・4%)、栗原圏域約1万8千人(13%)、登米圏域約1万4千人(10・1%)、その他約5千人(3・5%)である。
こうした利用状況からしても、今回の病院建設は県北全体を見据えた視点が不可欠になる。現在地建て替え派にこうした視点・主張があったかといえば、前述したように一つもない(それなのに元首長3氏と本間俊太郎氏が現在地の建て替え派になぜ与するのか分からない)。
「地域医療再生の手本」と医療関係者が評価
他方、今回の建て替え地移転の決定を専門家の医療関係者はどう捉えているのか。以下に記してみる。 「現在地での建設は土地取得が前提であったので、今回の方針変更は妥当である。状況が変わった時点での柔軟な対応も必要だ。医療スタッフ
が言えることを言える環境、意思疎通がしっかりできる環境は大事であり、今回の新病院建設を契機として、病院職員の団結が強まり、意識も変わった。穂波地区は『パレットおおさき』も活用でき、県北の基幹病院としてふさわしい場所だと思う。名実ともにそうなるよう大崎市民病院を育ててほしい。千手寺町の住民の方々も市民病院に対する思いは大きいので、きっちり話し合いをして、跡地は健康・福祉・医療・介護の拠点等として活用してもらいたい」(辻一郎・東北大学大学院医学系研究科教授)
「現在地での建て替えに当たり、問題が出た時点で方針変更を行なったことは英断であると思う。医師をはじめとする医療スタッフの団結は、この地域の医療を変えるものである。医師不足、看護師不足等、地域医療の崩壊が起きている中ですごいことだと思う。この英断は良い手本、日本全国の地域医療再生の手本となる」(本郷道夫・東北大学病院総合診療部教授)
「大崎市民病院は地域連携の拠点病院に認定されており、『県北の東北大学病院』となるものだ。県北最大のマグネットホスピタルになってもらわないと困る。宮城県の医療体制整備にあっては大崎・栗原・登米を一つの医療圏に再編する必要がある。その中にあって大崎市民病院は生死を扱う病院にしなくてはならないし、日本の第一線の病院として位置している。そのため機能を拡大している病院であり、そのことからすれば現在の病院は手狭だし、老朽化している。こうした状態が続くと医者離れが起こり、それによって患者離れが起こる。きちんとした病院、働きやすい病院を造るべきだ。患者と働く医療スタッフに優しい病院を早急に建設してほしい。そして地域の皆さんで医療を育ててほしい」(里見進・東北大学病院長・日本外科学会理事長)
「栗原中央病院には23人の医者がいるが、大崎市民病院には100人以上の医者がいる。栗原中央病院は手術・入院などの二次医療を担当しており、生命の危機に関する三次医療は大崎市民病院が受け持っている。それだけ県北地域は大崎市民病院に頼っているということだ。良い病院・頼れる病院・誇れる病院、それが大崎市民病院だ。では『良い病院』とはどういう病院を言うのか。第一に医師・設備機器がそれぞれ充実しており、薬剤が完備され、目標とする医療が明確になっている病院だ。第二には医師・看護師が自分の職場として選んでくれ、住民が安心して受診する病院だ。大崎市民病院は県北の基幹病院として、その役割・機能を発揮するために更に設備を充実してほしい」(小泉勝・栗原病院事業管理者)
以上、記してきたように、周辺首長・医療関係者など、どの方面からも大崎市民病院の大きな役割を期待し、そのためには穂波地区の移転が適切だという認識・発言で共通している。このことからしても、病院問題を市長選の争点にするなどというのは笑止であろう。
それ以上に「今後も病院問題を引きずるようだと、医者や看護士は嫌気がさして辞めてしまう懸念がある」(県北の病院の事務長)という。
「自分たちの意向に沿わなかったら、市長を代えるのか!」
4月の市長選に転ずれば、争点は「現職のこれまでの4年間を問う」ことに尽きる。とはいえ、合併後の新市長として即実績を上げるのは至難の業で、これは大崎市にとどまらない。
結果が出ていないから、交代させるというのでは、継続した行政運営はできようもないし、新市長が就任すれば前市長の計画は頓挫・変更され、いつまでたっても市政は停滞してしまう。
「元首長4人は自分たちが支持する候補者が市長になり、その市長が自分たちの意向に沿わなかったら、4年後、『俺たちの選択が間違っていた』といって、また別な候補者を立てる気でいるのか。いい加減にしてほしい」(先の集会に参加した市民の一人)
いずれにしろ、決着した病院問題を再燃させ、その「表舞台」に4氏が登場したことで、市長選はもちろん、その後の大崎市は「拭えないしこり」が漂うことになりそうである。
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